慢性呼吸不全:慢性呼吸不全の定義と原因疾患

慢性呼吸不全とは?

肺の働きは,空気中の酸素を体内に取りこみ,体内でつくられた二酸化炭素を呼気中にはきだすことです.さまざまな 病気によって肺の機能がそこなわれると,空気中の酸素を取り込む能力が低くなり,血液中の酸素の量が低下します.また,二酸化炭素がたまってくる場合もあ ります.このように,血液中の酸素量が一定基準より低下した状態を呼吸不全といいます.また,慢性とは,1ヶ月以上このような状態が続いていることをいい ます.

専門的になりますが,医学的には,空気を吸っている状態での動脈血ガス分析の結果によって,呼吸不全が定義されて います.動脈血酸素分圧(PaO2)は,若年の健康な人では100Torrですが,健康でも加齢によってやや低下し,80Torrくらいまでになることが あります.動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)は,正常では40Torr程度です.

呼吸不全の定義

動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下の状態

  • 動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が,45Torr未満のものをI型呼吸不全
  • 動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が,45Torr以上のものをII型呼吸不全

慢性呼吸不全とは,動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下の状態が1ヶ月以上持続する状態をいう。

慢性呼吸不全をきたす主な疾患

タバコの煙が肺をむしばむ病気~慢性閉塞性肺疾患COPD ~

タバコ関連疾患といえば、肺がんや心筋梗塞がその代表ですが、近年、命に関わる危険なタバコ病として、慢性閉塞性肺疾患への注目が高まっています。

詳しくはCOPDについてのページをご覧ください。

肺結核後遺症(陳旧性肺結核)

かつて,結核はわが国の国民病とよばれた時代がありました.結核に罹患した方の中には,現在結核は治っていても,肋膜の 癒着や肥厚,肺内病変の瘢痕,気管支拡張症または,胸郭成形術などの治療の影響が残っている方がおられます.このために呼吸機能障害が起こることがありま す.この疾患は,肺が十分に膨らまないことが多く,肺活量が小さい特徴があります.若い頃は自覚症状がなくとも,加齢による呼吸機能の低下に伴って息切れ などの自覚症状がでてくることがあります.肺結核のレントゲンはこちら

気管支拡張症

幼少期の肺炎や肺結核の後遺症びまん性汎細気管支炎などが原因になることが多いです.病的に気管支が拡張しており,喀痰や咳が続きます.繰り返し気管支周囲に炎症を起こすことで,呼吸機能が徐々に低下してきます.気管支拡張症のレントゲンはこちら

間質性肺炎(肺線維症)

原因不明のものを特発性間質性肺炎といいますが,膠原病(慢性関節リウマチや,強皮症,皮膚筋炎,全身性エリテマトーデ ス,混合性結合織病,シェーグレン症候群など)や,薬剤,放射線なども間質性肺炎の原因になります.本来スポンジのような肺組織が硬く縮んで小さくなり, ヘチマのように穴があいてきます.(蜂巣肺;蜂の巣のように輪型の穴があきます)病気の進行の速さと治療に対する反応性はさまざまですが,特発性間質性肺 炎は慢性に経過し徐々に進行することが多くこのために,呼吸困難が出現し,呼吸不全に至ることがあります.

職業性肺疾患(じん肺など)

粉塵や,金属フュームを吸入する職場(トンネル工事,炭坑,石材業,金属加工業など)で働いていた方に起こります.吸入物により病態はさまざまですが,じん肺では,肺内に大小の結節ができてくるのが特徴です.

その他

肺癌やその他の腫瘍性疾患でも呼吸不全をきたすことがあります.また,手術により肺を切除した方も呼吸機能の低下が起こりますので,呼吸不全をきたすことがあります.

呼吸不全が及ぼす臓器障害について

体に酸素が足りない状態が続くとさまざまな臓器に障害が発生してきます.

中枢神経

精神活動が鈍ったり,集中力の低下,抑うつなどをきたします.

循環器系

低酸素は心臓(特に肺循環にあづかる右心系(右心室・右心房))に負担をかけます.その結果,心不全をきたすことがあります.このような状態を肺性心といいます.

血液系

低酸素状態が続くとそれを代償しようとして,多血症(血液が濃い状態)が起こることがあります.しかし,栄養障害や慢性の炎症が続くために逆に貧血になる場合もあります.

呼吸が苦しくなり,食事がとれなかったり,呼吸運動にエネルギーを要するためにやせてくる場合が多いです.このため呼吸筋を含めた筋肉量が減ってさらに呼吸機能の低下を招くという悪循環をきたします.

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