肺がんQ&A
検診について
Q:集団検診で肺がんはどのくらい発見されますか?また、そのうち早期がんの割合はどのくらいですか?
A:人口10万人あたり50~100人(0.05~0.1%)くらいの肺がんが発見されると考えられています。1期肺がんはこのうちの30~40%程度と考えられ、集団検診受診者全体の0.015~0.04%と推察されます。
Q:肺がん検診の間隔はどのくらいが最善ですか?
A:1年に1回の胸部X線撮影が標準です。喫煙者には喀痰細胞診の併用が勧められています。
Q:CT検診はどのくらいの間隔で受けたらよいですか?
A:アメリカの喫煙者に対する臨床試験では1年に1回のCT検診で死亡率が低下したと報告されました。ただし非喫煙者のデータはありません。非喫煙者の30歳や40歳の人が肺がんを恐れて頻回のCTというのは、肺がんの頻度が低い事と、放射線の影響を受ける可能性が全くないとはいえない年齢なので、あまりお勧めしません。1年に1回の胸部X線撮影と5年に1回程度のCT検診を勧めている施設もあります。
Q:検診で異常を指摘された場合はどうすればよいのですか?
A:当院など呼吸器専門医のいる呼吸器科を受診して下さい。通常、胸部X線の病変を確認後に胸部CTを撮影します。肺がんの疑いがあればさらに追加検査を行います。
Q:主治医から胸部CTで異常があると言われましたが、経過観察CTを勧められました。どうすればよいですか
A:確定診断をつけることが困難な10~15mmの異常陰影に対しては3ヶ月後に経過観察CTを撮影し、確定診断をつけるか、このまま経過観察を続けるか決定することが多いようです。経過観察の場合は異常陰影の性状に応じて検査間隔を3~12 ヶ月に設定しています。
Q:小さい石灰化陰影で問題なしとされたが経過観察する必要はありますか?
A:CTを含む検査で問題ないと診断された場合でも1年に1回の検診は受けて下さい。新しい胸部異常が発生する可能性はあります。多くの場合小さい石灰化陰影は、結核を含む肺の炎症性疾患の痕跡の可能性が高いと思われます。
診断と進行度について
Q:肺がんの診断はどのように行うのですか?
A:肺の異常部位から組織の一部を採取し、顕微鏡検査(病理検査)を行い、がんであることを確認することが重要です。痰が出れば喀痰細胞診を、また胸水が貯まっている方には針で胸水を採取し細胞診を、またリンパ節が腫れている方にはその一部を採取し検査します。簡単に採取できない場合は気管支鏡検査を行い、直接肺の異常部位から組織の一部を採取し、検査・診断します。最近は分子標的治療薬の進歩で遺伝子検査が必須になってきましたので、診断用の検体を採取したときにその一部を遺伝子検査にまわすようになりつつあります。
Q:生検をした場合、がん細胞が飛んで転移しないのですか?
A:病巣からがん病巣の一部を採取して、顕微鏡などで調べる検査を「生検」と呼んでいます。気管支内視鏡の先から細いワイヤーを伸ばし、先端のマジックハンドのようなはさみを使ってがん病巣の一部をつまみとる方法は「気管支鏡生検」といいます。この方法によって、がん細胞をまき散らして「転移」を誘発させることはないと考えられています。確実な「生検」を行うことで、がんであるかどうかが正確に判断できます。また、がん細胞の詳しい性質を分析して適切な治療薬を選択する意味でも重要なことと考えますので、積極的な実施が望ましいと思います。
Q:肺がんの臨床病期とは何ですか?
A:肺がんの治療を始める前に肺がんがどの程度拡がっているかを示すものさしです。IA期、IB期、IIA期、IIB期、IIIA期、IIIB期、IV期の7期に分類されます。原則、臨床病期に応じて治療が決定されます。
Q:臨床病期はどのように決めるのですか?
A:胸部造影CT、腹部造影CT、骨シンチ、頭部MRIを行い、がんがリンパ節に転移していないか、あるいは遠くの臓器に転移していないかを調べます。肺がんが脳、骨、肝臓・副腎(腹部臓器)に転移しやすい性質を有しているためこれらの検査を行います。
Q:病理病期とは何ですか?
A:前述したように肺がんの患者さんは治療を受ける前に臨床病期を決定し、病期に応じた治療が勧められます。外科治療(手術)を受けた患者さんは切除した肺とリンパ節を顕微鏡で詳しく調べることができます。その結果に基づいて決定した病期が病理病期です。例えば術前には転移がないと判断していたリンパ節や肺内への転移が判明することがあります。またがん細胞が胸腔内にこぼれる播種が発見されることもあります。そのため多くの場合、病理病期は臨床病期と同じか、あるいは上がってしまうことが多いようです。また病理病期に応じて手術後の治療が検討されます。
Q:CTなどの放射線を用いた検査を行って、被ばくは大丈夫ですか?
A: CTの撮影部位や範囲で異なりますが、1回の被ばく線量は10ミリシーベルト程度と考えてください。主治医が指示して行う回数程度では、問題ないと考えられます。また主治医は患者さんの利益があると考えるときに検査を勧めています。わずかな被ばくを恐れて必要な検査を受けないことはお勧めできません。
外科治療(手術)について
Q:肺がんの手術はどのようなものですか?
A:人間の肺は右に3つ、左に2つあり、この一つ一つを肺葉と言います。肺がんの標準手術はがんのある肺葉を切除するか、または片肺全体を切除することと定められています。合併症などを有する患者さんに対しては切除範囲がより小さい区域切除や部分切除が選択されることもあります(消極的縮小手術)。
Q:胸腔鏡手術はできますか?
A:当院では肺がんに対する胸腔鏡手術に積極的に取り組んでいます。ただし臨床病期IAまたはIB期で、癒着がない・各肺葉がきれいに分かれているなどの条件を満たした方が対象になります。主治医からも対象患者さんには説明します。また希望される方は外来においで下さい。
Q:手術後の痛みは強いですか? また痛い場合の対処方法は?
A:麻酔技術の進歩や胸腔鏡手術の導入に伴い、一昔前とくらべて手術後の痛みは多くの患者さんで軽くなっています。しかし残念ながら一部の患者さんに「開胸術後症候群」と呼ばれる難治性の痛みが残ってしまうのが現実です。当院では麻酔科医と協力しあって痛みの軽減に努めるとともに、開胸術後症候群が発生した場合にはペインクリニック外来で積極的な治療を行っています。
Q:手術後の抗がん剤について教えて下さい。
A:病理病期IAで腫瘍の大きさが2~3cmの腺癌の方とIBの腺癌の方には、抗がん剤(内服)ユーエフティ(R)の内服1~2年が推奨されています。5年生存率が5~7%程度改善すると報告されています。現在TS-1(R)という抗がん剤も内服可能です。しかしユーエフティ(R)とどちらが優れているかの結論が出ておらず、現在比較試験が進行中です。 病理病期IIA~IIIAの患者さんには抗がん剤(点滴)を行うことが推奨されています。シスプラチン(CDDP)+ビノレルビン(VNR)が標準治療とされていますが、患者さんの状態に応じてシスプラチン(CDDP)あるいはカルボプラチン(CBDCA)+第3世代抗がん剤が行われています。
薬物療法(抗がん剤)について
Q:抗がん剤治療はどのような人が対象になるのですか?
A:III期で手術や放射線治療で根治が困難な方とIV期の方が多少になります。III期の方の一部には化学放射線治療という抗がん剤と放射線治療を併用した治療を行うこともあります。
Q:抗がん剤治療の期間はどのくらいですか?
A:通常の点滴の抗がん剤は、1回の治療期間(1サイクルと言います)が3~4週間で、これを2~6サイクル行います。この間、主治医が治療効果と副作用(有害事象)を慎重に評価し、必要な場合には抗がん剤投与量を減らしたり、次のサイクル開始を遅らせたりすることもあります。
Q:抗がん剤治療の副作用はどのようなものですか?
A:抗がん剤はがん細胞だけではなく正常細胞にも作用します。そのため正常細胞の機能が損なわれて様々な副作用が生じます。自覚症状でわかる副作用と検査によって初めてわかる副作用があります。抗がん剤ごとに副作用は異なりますので、詳しくは主治医・担当医にお問い合わせ下さい。
Q:分子標的治療薬は使えますか?
A:現在使用可能な分子標的治療薬は、ゲフィチニブ、エルロチニブ(以上、EGFR-TKI)、クリゾニチブ(ALK阻害薬)、ベバシズマブの4つです。このうちベバシズマブは腫瘍が新しい血管を作る時に働く成長因子を阻害する薬剤です。扁平上皮がん以外のがんに対してプラチナ製剤と併用して用いられます。 ゲフィチニブ、エルロチニブ、クリゾニチブは使用する前に遺伝子検査が必要です。ゲフィチニブ、エルロチニブは上皮成長因子受容体(EGFR)に変異がある場合のみに効果が強くでることが証明されています。一般にアジア人、女性、腺癌、非喫煙者に変異が多いことがわかっています。日本人では30%前後と考えられています。 クリゾニチブは未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)に遺伝子融合が生じて、がん細胞ができた人にのみ効果があります。
Q:非小細胞がんに用いるALK阻害薬について詳しく教えて下さい。
A:ALK阻害薬ザーコリは、「ALK融合遺伝子」というがん遺伝子の働きを阻む分子標的治療薬です。2012年から我が国でも使用できるようになりました。これは、カプセルの飲み薬で1日二回内服します。ALK融合遺伝子が検出されていない方には効果がありません。この薬が適合する患者さんは少なくて、非小細胞肺がん患者さんの20人に一人程度とされています。そのため、実際に使用している方はまだ少ないです。かなりの進行がんで治療が困難であった方に劇的な効果があった事例もあり、条件を満たした患者さんにおいては非常に重要な治療薬と思われます。ただ、この薬剤もずっと効くわけではありません。がんの増大を抑える効果が続くのは平均的には数ヶ月程度と推定されます。したがって、肺がんを治す力はありません。 副作用としては、吐き気が出やすいことが知られています。また、「目がチカチカして、見づらい(視覚異常)」というような変わった副作用の報告があります。
Q:イレッサの間質性肺炎を抑制(予防)するかもしれないとして胃薬のセルベックスが話題になったことがありますが、実際に使用されていますか?されているようでしたらタルセバに関してはいかがでしょうか?
A:イレッサの重大な副作用である「間質性肺炎」の予防に、一般的に使用されている胃薬「セルベックス(一般名テプレノン)」が有効かもしれないという報告が、慶應義塾大学の水島徹教授らによってなされました(2011年)。その後の続報がまだありませんので、実際に有効性があるかどうかは判定できません。しかし、セルベックスは我が国で広く使用されている胃薬であり、安価で副作用も少ないと思われますので、使用しても悪くはないと思います。ただ、当院では一律に使用するということはしておりません。
射線治療について
Q:肺がんに対する放射線治療はどのように行いますか?
A:1回2Gy(グレイ)の放射線治療を週5回(月潤E金曜日)行います。6週間で合計60Gy行うのが標準治療とされています。
Q:放射線治療の1回の治療時間はどの位ですか?
A:治療の部屋に入室し、治療を行い、退室するまでの時間は約10分です。
Q:がんの初期の段階で放射線治療はできませんか?
A:放射線単独で完治する根拠がないため、手術可能な方には手術が勧められています。いまは縮小手術も進歩していますので、まずはそちらを考慮してください。手術ができないI期非小細胞肺がんに対しては、放射線治療が適応になります。
Q:先進医療と言われる粒子線治療機器の設置予定はありますか?
A:設置に100億円程度かかるため、設置予定はありません。また、今のところ新潟市内にも設置予定はありません。参考までに現在粒子線治療が設置されているのは以下の施設です。重粒子線が全国に3か所、陽子線が8か所稼働しています。
- 重粒子線
放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター病院(千葉県千葉市)
群馬大学重粒子線医学研究センター(群馬県前橋市)
兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市) - 陽子線
南東北がん陽子線治療センター(福島県郡山市))
筑波大学附属病院 陽子線医学利用研究センター(茨城県つくば市))
国立がん研究センター東病院(千葉県柏市))
静岡県立静岡がんセンター(静岡県駿東群長泉町))
名古屋市立西部医療センター 名古屋陽子線治療センター(名古屋市))
兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市))
福井県立病院 陽子線がん治療センター(福井県福井市))
がん粒子線治療研究センター(鹿児島県指宿市)
Q:重粒子線,陽子線の治療について教えてください。
A:通常の放射線治療装置と異なり、重い粒子をがん細胞にぶつけるため殺傷力が強く、また周囲の正常組織とがんの部分を通常型の装置に比し比較的鮮明に区別して、治療できます。
- 通常の照射で効きにくいがんや、相対的に弱い正常組織に近接した腫瘍を治療するのに効果があります。
- 現在は放射線の効きにくい骨軟部腫瘍や、網膜のがん 頭蓋骨底部、肝臓などがよい適応です。通常照射で効きにくい組織型の肺がんも適応はあります。
- 粒子線照射の適応はその施設の医師群が延命効果を期待できるか否かで判断しています。そのため、原則遠隔転移のない腫瘍です。 いくら粒子線でも照射した部位にしか効果はありません。 健康保険外なので、約300万円前後かかります。
緩和医療・在宅療養について
Q:他の病院からそちらの病院に移ることはできますか?
A:通常の手続きをして頂き、転院・外来受診が可能です。可能な限りで結構ですが、前医からの紹介状をお願いしたいと思います。患者さんの現在の病状に最善の医療を提供するためです。前医から当院の地域連携室に連絡していただければ幸いです。
Q:ホスピス病棟の設立予定はありますか?
A:現在設立の予定はありません。一般病棟の中で、治療から緩和ケアまで一貫して行っています。
その他
Q:乳がんや大腸がんなどの他臓器のがんが肺にできることはありますか?
A:すべてのがんが肺に転移する可能性があります。もともと肺にできたがん(原発性肺がん)と他臓器がんが肺に転移したがん(転移性肺がん)を鑑別して治療することが重要です。転移性肺がんで積極的な外科治療の対象となるものは大腸がん(結腸がん、直腸がん)の肺転移です。一般的に転移性肺がんの場合は部分切除などの縮小手術が行われます。
Q:がんと免疫療法について(できれば効果など、どう言うものかなど)がんワクチンについて教えてください。
A:「免疫」とは、細菌やウイルスなどの外的から体を守る体内の防御システムです。この免疫の力を利用してがんを攻撃し、排除しようとする治療が「がんの免疫療法」です。 LAK細胞、樹状細胞といった免疫細胞を利用した治療や、がんペプチドワクチン療法などが検討されていますが、肺がんに対して明らかな有効性の確立したものは、まだありません。一部の医療機関で種々の免疫療法をお受けになっている患者さんはおられますが、その効果を客観的に判定するにはデータが不足しています(肯定も否定もできない)。 私見では、きわめて進行悪化してしまったがんに対しては、免疫療法の力も限りがあるのではないかと考えます。一方、体内に存在するかもしれない少数のがん細胞を退治するような場面では、有効かもしれません。たとえば、手術後の再発予防に使用するなどの試みは、今後検証していく価値があると思います。 近年、腫瘍免疫学という学問が急速に進歩しており、これに基づく「がん免疫療法」は手術、放射線、化学療法に次ぐ「第4のがん治療」として期待されています。先進的医療機関での臨床試験が実施されており、いずれは有力な治療手段になるかもしれません。